量子力学〜状態のブラケット表示①〜

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こんにちは

 

とうとう量子力学での記事も3つ目となりますね。

ここまでどうだったでしょうか。ぜひ参考にしてくださいね!

 

前回までは、粒子の状態は関数で表してきました。おそらく大学の最初の頃は関数の方がわかりやすいと思います。しかし、関数以外の状態の表し方が実は存在します。それがディラック(P. A. M. Dirac)により導入されたブラケット表示というベクトル表示です。

ブラケット(bracket)という単語を辞書で調べて見るとわかりますが、角括弧(<>)という意味です。

 なので、状態を|\psi\gtのように表示します。また、この表示での名前を紹介すると、|\psi\gtケットベクトル\lt\psi|ブラベクトルと言います。覚えやすさを考えれば、<>がブラケットと英語でいうので、"<"がブラ、">"がケットという風に覚えてしまうのが簡単でしょう。

では、関数で親しんできた状態の表示がなぜベクトルで表示できるの?と疑問に思った方もいると思います。

その疑問を解消するためにもここで内積というものについて振り返ってみたいです。

 

内積

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ベクトルの内積についてちょっと振り返ってみてください。

\vec{a},\vec{b}の2つのベクトルがあったときにその内積\vec{a}\cdot\vec{b}

\vec{a}\cdot\vec{b}=|\vec{a}|\cdot|\vec{b}|\cos\theta

となります。

正直これが何を表すのかわかっていない方もチラホラいたりするので、もう少し意味について考えますね。

結論から言ってしまうと内積は正射影をしていることと同じです。これじゃわからないのでもう少し砕くとあるベクトル(図の棒)に光を当ててそのベクトルの影を映し出すことに近いです。 一番わかりやすい例は仕事Wだと思います。

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通常、物理で仕事は力×距離で習うと思います。上の図だとW=Frだということですね。一方で、下の図だとW=Fr\cos\thetaとおそらく多くの高校生は習います。これが意味するのは力ベクトル*1\bf{F}\bf{r}方向成分と距離をかけたものです。もう少しわかりやすくするために単位ベクトルというものを導入します。単位ベクトルとは長さが1のベクトルです。なぜ単位というのかは、例えば距離の単位はと言われれば1 m、質量の単位なら1 kgと皆さん答えると思います。よっぽどのひねくれ者でなければ、2 mや8 kgを単位としている人はいませんよね。では、距離\bf{r}方向の単位ベクトル{\bf{e}}_rは距離で割り算すればよいので\displaystyle {\bf{e}}_r=\frac{{\bf{r}}}{|{\bf{r}}|}となります。よって、この単位ベクトル{\bf{e}}_rと力\bf{F}内積は次のようになります。

{\bf{F}}\cdot{\bf{e}}_r=F\cos\theta

すなわち、力の距離方向成分が出たというわけです。イメージつかめたでしょうか?内積というのは結局ある方向成分への正射影であるということです。仕事Wはただここで出たF\cos\thetaと距離rを掛け合わせれば良いので同じ結果が得られます。(当然ですが笑)

 

では、話を戻しましょう。

なんとなく内積は射影なのかとお分かり頂けたと思います。では、ブラケットでは何をしたいかを話します。\lt{\bf{r}}|\psi\gtという表示があったときにこれは\lt{\bf{r}}|というブラベクトルと|\psi\gtというケットベクトルの内積を表します。少しずつ気づいた方も出てきたかと思いますが、状態ベクトル|\psi\gtを実空間の位置|{\bf{r}}\gtに正射影するとそれは状態関数\psi({\bf{r}})になるということなのです。

\lt{\bf{r}}|\psi\gt=\psi({\bf{r}})

余談ですが、僕たちが見える状態というのはほとんど場合、実空間への射影だから見えるのですね。もしかしたら別の側面が別の空間には見えているかもしれません。

 

今日はここまでにしますが、話をまとめると粒子の状態は関数(\psi({\bf{r}}))だけでなくベクトル|\psi\gtでも表示できるということ、内積とは正射影であるということ、状態ベクトル|\psi\gtの実空間(\bf{r})への正射影が状態関数\psi({\bf{r}})であるということです。

 

では、また!

 

2017-12-28

*1:大学ではベクトルをボールド(太字)で書くことが多い